鈴木良太

2020年6月4日8 分

「Daddy Killer」 第三話 「葛藤」

僕が愛加と付き合って、一年くらいが経った。


 

愛加とこんな長く続くとは思っていなかった。


 

次郎に、


 

「良太。お前25歳になるのに彼女できたことないなんてやばいって。いい女紹介してやる。」


 

って、言われて紹介されたのが愛加だった。


 

普通、自分の彼女を彼女として紹介するなんて、多くの人の常識で考えたら明らかにおかしい。


 

でも次郎のことを知っている僕からしたら、次郎ってそういうやつだなってわかる。


 

次郎は昔っから、本当に僕のことを心配してくれている。


 

僕の父親は、今の時代には珍しい厳格な父親。


 

警察官だということもあるが、すごくこわい。


 

僕は小さい頃から、何か失敗したらお父さんに怒られるという恐怖に怯えていた。


 

そんな時、いつも近くで守ってくれていたのが、次郎だった。


 

お父さんに怒られた時、宿題がわからない時、部活に入る時、高校を選ぶ時、大学に入る時、就職先を考える時、全部次郎に決めてもらっていた。


 

だって、昔っから、スポーツもできて、勉強もそこそこできて、女の子にモテモテで、優しい次郎は僕の中でヒーローだったからだ。


 

次郎のいうことはなんでも正しい。


 

次郎のいうことを聞けば、僕は間違いないのだ。


 

だから、愛加と付き合うことは正解だった。


 

愛加と僕は気が合うし、ケンカすることもない良いカップルだった。


 

次郎と愛加が付き合っている時、次郎が仲良くしている他の女性のことでもめていた。


 

僕は、モテないのでそんな心配はない。


 

だから、愛加はやきもちをやくことがなく、いつも優しいお姉さん。

僕もそれに甘えていた。


 

こんなことが長く続くわけがないとわかりきっているのに。


 

「来週のお盆休み、どうする?たまには旅行とか行かない?私たち。」


 

「ごめん。来週のお盆は、高校時代の部活の後輩が僕んち泊まりにくる。」


 

「もしかして、青山くん?あんたたちほんと仲良いわね~。最近、気づいたんだけど、電話の通話時間も私より、青山くんの方が長いんじゃない?」


 

「えっ。そんなことないって。あいつ、なんか僕の方が先輩やのに、先輩と思ってないみたいでしょっちゅう電話してくるねん。大丈夫安心して。あやしい関係じゃないから。」


 

「えっ。もしかしてそっち。も~。あんたが女性友達少ないのもそれが原因?ちょっとおもしろ過ぎるわよ。じゃあ私は女子旅するわ。友達の三川と赤松と旅行行くわ。あの二人彼氏と別れたばっかりだから。」


 

「うん。わかった。僕から、ちょくちょくメッセージ入れるから。おやすみ。」


 

というわけで、お盆休みは彼女と過ごさず、高校時代の後輩青山正志(まさし)と過ごすことになった。


 

でも本当に愛加がいう通り、僕と正志はデキているかのようにずっと一緒にいる。


 

僕と正志は高校のときの先輩後輩の中だ。


 

正志は僕より歳が一つ下の後輩だ。


 

部活は柔道をしていたので、上下関係は厳しく、雑用は全て後輩がしていた。


 

練習中は、僕に対して、


 

「鈴木先輩、お疲れ様です!!」


 

って大きな声が挨拶してくるのに、夜になると電話がかかってくる。


 

「なあなあ良太。今日の練習中、あいつの柔道着くさくなかった?絶対洗ってないよな?柔軟剤入れて洗えよって思わへん?」


 

って、まるで昼間と別人のような対応に変わるのだ。


 

それを許してしまっている僕も僕なのだが、まるで先輩としての威厳がない。


 

僕が大学に進学してからは、僕は部活に入らず、柔道は辞めた。


 

正志は僕より柔道が強く、大学に入ってからも柔道を続けていた。


 

僕も正志も奈良県出身で、大学は京都の別々の大学に行っていた。


 

僕は自宅から大学に通っていたけど、正志は部活も忙しかったことがあり、京都で一人暮らしをしていた。


 

よく終電を逃したときに、泊めてもらっていた。


 

大学のときも時間が合えば、二人でよくドライブに行っていた。


 

その話を大学の友達にすると、


 

「おまえそいつとデキてるのか?」


 

って愛加と同じことを言われた。


 

僕は正志のことをかわいい後輩だと思っている。


 

「良太!!良太!!」


 

と生意気だが、兄弟で弟が欲しかった僕には弟のような存在だ。


 

僕が次郎から大事にされているように、僕も正志を大事に思わなければならないと思っていた。


 

「乾杯!!」


 

「先月は美味しいとこ食べに行ったのに、今回は宅飲みなんて、珍しいな。正志なんかあったの?」


 

「いや。そんなことないけど、良太の家でゆっくりお酒飲みたいなって思って。」


 

僕は大阪の中小企業で営業事務をしている。


 

正志は大学を卒業して銀行員になった。


 

銀行員は僕のとこの会社と違って、ボーナスが桁違いだった。


 

「えっ。正志とこそんなにボーナスもらったの。まだ2年目やのにそんなにもらえるの?」


 

「普通ちゃう?良太んとこもそれくらいもらえへんの?」


 

「もらえるわけないし。そんなにもらえるんやったら、今回のお盆休み海外旅行行きたいわ。」


 

「良太。海外行ったことないもんな。行ったら、いいやん。どうせお金貯め込んでるんやろ?」


 

「え~。給料あんまりもらえへんから、貯金してた方がいいやん。」


 

「海外旅行とか、良太は口だけやからな。今日のお酒もほとんど発泡酒やん。どんだけケチなん?」


 

どうやら正志は酔ってきたようだ。


 

「発泡酒もビールも僕、味変わらへんやん。それやったら安い方買わへん?てか、正志飲み過ぎちゃう?お布団出すで。」


 

「嫌。もっと。良太ももっと飲め。いっつも全然飲まへんやん。」


 

今日の正志は珍しくわる酔している。


 

僕も正志に勧められて、たくさん飲んでしまった。


 

気がつけば、二人ともリビングで寝ていた。


 

正志は気持ちよさそうに寝ていたので、薄い布団を上からかけてあげた。


 

僕は電気が付けっぱなしだったので、電気を消して、そのままソファーで寝ることにした。


 

数時間くらい寝た。


 

感覚的にまだ朝ではない。


 

おそらく朝方の4時。


 

ゴソゴソ物音がする。


 

正志が目を覚ましたのだろうな。


 

すると、正志は僕の思いもよらぬ行動に。


 

僕の股間を確かめ、僕のズボンをおろし始めたのだ。


 

朝だから、男の股間は元気になっている。


 

決して、正志に欲情したわけではない。


 

「ちょっと、正志!!なんで!?」


 

「大丈夫。大丈夫。酔ってるだけやから。目をつむってて。気持ちよくしたるから。」


 

僕は身を委ねてしまった。


 

しかし、体とは裏腹に頭は混乱している。


 

一体、正志はいつから僕のことをそんな目でみていたのか?


 

高校のとき、そんな目でみていたのか?


 

いやいやそれとも大学のときか。


 

今、そういうことしたいと思っただけか。


 

でも、それだったら、泊まりで飲みと計画すること自体怪しい。


 

コトは終わり、そのまま正志は朝まで寝ていた。


 

僕は頭が冴えてしまい、ずっと正志に対して心の中で問いかけ続けた。


 

僕はどうしたらいいのか。


 

正志とどうなればいいのか。


 

かわいい弟ような存在。


 

でも恋愛対象にはみれない。


 

いやいやそもそも僕には愛加がいる。


 

でも僕は愛加を心から愛しているわけではないだろう?


 

大事な正志をかわいがりたい。


 

愛加と終わりにしたらいいのか。


 

愛加と正志に申し訳ないが、二人の関係が実に対極にあると思えてしまった。


 

体を愛することができる正志と心を愛することができる愛加。


 

体を愛することができない愛加と心が愛せない正志。


 

朝になって、正志が起きてきたので、簡単な朝ごはんを作ってあげた。


 

正志は、


 

「あ~。二日酔いだ~。昨日のこと何も思い出せねー。」


 

と言っていたが、空気はどことなく気まずい。


 

正志はこのお盆休みに二日泊まると当初は言っていたが、昼くらいになって用事があるからといい、早々に奈良に帰って行った。


 

今日と明日の予定がまるまる空いてしまった。


 

こんなことになるんだったら、愛加と旅行にでも行けば良かったかな。


 

でも、それは僕がしたいことなのだろうか。


 

この空いてしまった時間は僕がしたいことを考える大事な時間。


 

ちょっと、愛加も正志のことも考えるのやめよう。


 

もっと自分に正直になってみよう。


 

僕が昔から好きだったのは、学校の先生。


 

担任の教師や部活の先生に対して好意を抱いていた。


 

年上の人と話すと、子どもっぽい自分を出すことができる。


 

甘えることができる。


 

年下の子と話すときは、頼られる存在にならなければ。


 

しっかりしようと演技する。


 

僕は末っ子の影響なのか、すごく甘えたいみたいなのだ。


 

学校の先生のような大人の男性に会いたいと思った。


 

前から気になっていたアプリがあった。


 

「66」。


 

同性愛者用の出会いアプリだ。


 

気にはなっていたけど、愛加と付き合っている僕はそれをしてはいけないとわかっていたからだ。

僕がそんな趣味を持っていることを知れば、お父さんも怒るだろうな。


 

次郎はどう思うかな。


 

信じないだろうな。


 

僕と愛加が結婚すると思っているだろうから。


 

余計なコトは考えるな。


 

今日の僕は、どこまでも落ちてしまおう。


 

アプリ起動!!


 

求める人は、30~40代の年上の男性。


 

「初めまして。良太と申します。25歳です。このたび初めてこのアプリを使用します。わからないことがたくさんありますが、いろいろ教えて頂ければ幸いです。ぜひ、よろしくお願い申し上げます。」


 

ちょっと、固いのかな?


 

ププッ。


 

おっ。もう返信が来た。


 

「こんにちは。良太くん。カズと言います。45歳だけどダメかな?良太くんみたいな若い子と付き合いたいです。良かったら、身長と体重と写メ送ってくれるかな?」


 

あっ。そういうルールなんだ。


 

パシャッ。


 

こんな感じかな?


 

「こんにちは。顔はこんな感じです。身長は173cm体重は62キロです。」


 

「あっ。良太くん。かわいい顔してるね。体格も痩せているし、私好みです。良太くんが良ければ、今度ご飯でもどうですか?」


 

かわいい?


 

僕が。


 

僕は素朴でイケメンじゃない。


 

イケメンでモテているのは次郎。


 

いやいや。


 

お世辞だろ。


 

僕の容姿なんて良くない。


 

存在感薄いし。


 

でも褒めてもらえるなんて嬉しいな。


 

「ありがとうございます。カズさんが良ければ、ぜひご一緒させてください。いつ行きますか?」

つづく。


 

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