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  • 執筆者の写真鈴木良太

「Daddy Killer」最終話「襲撃」。

井戸沢さんは僕にメッセージも連絡を送ってくるなと言っていた。


普通に連絡を取るだけだと、スルーされるだけ。


ここは演じなければ。


「井戸沢さん。こんばんわ。これまでのしつこい電話やメッセージで井戸沢さんを不快な気持ちにさせてしまい、大変申し訳ございません。もし、井戸沢さんのご迷惑にならないのであれば、最後にお別れの挨拶をさせていただきたいです。井戸沢さんにはいろんなことを経験させていただきました。お別れと感謝の言葉を直接伝えたいです。今後、僕につきまとわれて不安に感じているかもしれません。でしたら、ぜひ警察官の兄や父にその旨をお伝えください。警察の身内である僕がそんなことできますでしょうか?返事待っています。良太」


ああ。


我ながら、なんてずる賢い。


いやいや「Daddy Killer良太」のアドバイスだよね。


あっ。


返事が来た。


「わかりました。では、土曜日の夜18時に私の家に来てください。手短かにお願い致します。井戸沢」


なんてわかりやすい人なんだろう。


井戸沢さん。


素敵だ。


でも悲しいよ。


僕という人間を理解していないので。


僕は井戸沢さんに全ての思いを伝えます。


実はね。


以前も井戸沢さんに言ったことがあるんだよ。


僕が井戸沢さんのことを傷つけてしまうのがこわいって。


今は違うんですー。


傷つけたくて傷つけたくて仕方ないんですー。


僕は土曜日、18時ちょうどに京都の井戸沢さんの家に向かった。


しかし、何かおかしい。


誰かに見られているような気がする。


僕がこれからやろうとしていることにビビっているだけなのか。


武者震いなのか。


いつもと何かが違うような気がする。


まあそんなことはどうでもいい。


今は井戸沢さんのことだけに集中しよう。


ピンポーン。


「はい。鈴木君。どうぞ。玄関は開いてします。」


ガチャ。


「お邪魔します。」


「どうしますか。話はここでしますか?」


井戸沢さん。


さすがに警戒態勢か。


いつものようにニコニコデレデレしてないな。


でもそこがいい。


その必死なところ。


早くみたい。


「もし良ければ、リビングでお話ができると光栄です。お茶は結構です。」


井戸沢さんにリビングまで案内された。


しかし、変だ。


井戸沢さんじゃない。


この井戸沢さんの家には何度も何度も来た。


だからわかる。


いつもの家の感じじゃない。


何かを感じる。


霊的なもの?


違和感。


威圧感。


僕の気負いのせいなのかな。


「どうぞ。ホントにお茶は出さないよ。」


いいんですよ。


それで。


「じゃあ手短かにとのことでしたので、早速始めましょう。最初に井戸沢さんにお聞きします。質問です。僕の下の名前はなんでしょう?」


「質問?なんで?謝罪と感謝を言いに来たんじゃないの?」


「まあまあ質問に答えてくださいよ。大事なことなんですよ。」


「ごめんね。鈴木君の下の名前、覚えていない。」


「いや~。いいんですいいんです。ホントに僕は嬉しいです。あなたが予想以上に素晴らしい人で。」


「それ褒めてないよね。」


「とんでもございません。僕は生まれてからあなたのような人間がいるなんて考えたこともなかったのです。僕は今までの人生あまり他人に興味がありませんでした。兄の次郎だけを信じていたからです。しかし、井戸沢さんの存在を知ってそれが覆ってしまったのです。僕の中で、井戸沢さんの存在があまりにも大きくなってしまいました。そんな僕の中で大きくなった井戸沢さんは僕の気持ちとは裏腹を僕を馬鹿にし続けていました。」


「僕はそんなことしてないよ。鈴木君のことは好きだったよ。」


「ってみんなに言っているのはわかっています。それがどうしてもどうしても僕は許せなかったようです。本当に本当に。あなたがいるだけで、あなたが生きていること、存在していることがもう耐えられないんです。」


「鈴木君。苦しかったんだね。ホントごめんね。僕なんかのせいで。」


井戸沢さんは涙を流しながら、僕の頭を撫でた。


ああ。


普通の若い子だったら、「Daddy Killer良太」が入っていない僕だったらヤバかったな。


これをされていたら、また惚れてケツの穴でも喜んで突き出していたのかもしれない。


「ホントに死んで欲しいです。生きていて欲しくないです。」


「僕は君にだったら殺されてもいいよ。」


ニヤ。


「じゃあ自分で死んでください。自殺してください。」


そのときの井戸沢さんの表情を僕は見逃さなかった。


さっきまでのくだらない恋愛話のもつれの延長をドラマチックに感傷に浸っていたけど、もうわかっただろ?


すでの事の流れは恋愛話じゃなくなっているってことを。


事件性を感じただろ?


井戸沢さんは目が覚めたかのように大きな目を見開いて、僕の方をジッとみた。


この子は本当に危ない子だと恐怖でも感じたのだろうか。


「ごめんね。それはできない。」


「わかっています。あなたは会社を背負っています。あなたが亡くなれば、会社の方々が露頭に迷うでしょう。ですが、僕がどれほど苦しんでいたか、あなたにはわかりますか?」


「…。」


「どう考えてしました?あなたが僕以外のたくさんの若者と関係を続けている時、僕の心はどうなったでしょうか?」


「…。」


「僕も最初はわからなかったんです。だって人を好きになったことなかったんですから。よりによってあなたのような人を最初の相手になってしまったんです。どう思いますか?あなたは楽しかったですか?」


「…。」


「本当にこの数ヶ月間気が狂いそうでした。僕には向いてなかったんです。こういうこと。僕の心の傷、責任とって欲しいですね。」


「…。」


「正直に話しますと、あなたのこと殺したいほど憎いです。ですが、実際殺してしまうと、親や家族に迷惑がかかってしまいます。そんな親不孝者にはなりたくないんです。だから提案があるんです。聞いていただけますか?」


「できそうなことだったら、聞くよ。なんだい?」


「一発殴らせてもらえませんか?」


「えっ。」


「それだけでいいです。それだけで。本当は殺したいほど憎んでいますが。一発殴るだけ、それでもう本当に終わりにしましょう。」


険しい表情で少し悩んでいる井戸沢さん。


「痛いの嫌だな。でもそれで君の気が済むのであれば、一発だけだもんね。」


「じゃあ交渉成立ですね。いきますよ。」


井戸沢さんは僕が言わなくても直立した。


殴るとしか伝えてないが、頬を殴られると思って井戸沢さんは力んでいる。


僕は渾身の力を込めた。


右の拳に今までの井戸沢さんに対する全ての憎しみを込めて。


僕は思いっきり左足で井戸沢さんの目の前に踏み込み、腰を使い全体重を拳にのせて、右フックを井戸沢さんの顔面目掛けて放った。


井戸沢さんは恐怖で目をつぶった。


当然だろう。


どれだけの痛みを感じるか想像つかない。


だが、


僕はその瞬間、右フックの軌道を修正し、井戸沢さんのボディに直撃させた。


ドグンッ!!


ニブくて生々しい音が出た。


顔面を殴られると思って、その部分に集中していたはずが、全くの無警戒で防御していなかったボディ。


想像を絶する痛みだろう。


井戸沢さんは前かがみになってあまりに痛みと苦痛に、よだれがなだれ落ちている。


顔面が前に出てくるのを待っていたんだ。


僕は再度力を集中させた。


また井戸沢さんの前に大きく踏み込み、全体重を右拳にのせ、フルスィングの右フックを井戸沢さんの顔面に直撃させた。


ドガン!!


井戸沢さんは数メートル吹っ飛んだ。


泡を吹いて意識を失っている。


一見、華奢に見える僕を侮っていたのだろうか。


格闘技経験者だと伝えていたのに。


どれほど僕を甘く見ていたのだろうか。


予想通りだったけど。


でも、時間はない。


手筈通りに行動しないと。


まずは、井戸沢のスマホを探す。


井戸沢さんのスマホを第三者の手に渡ってはいけない。


特に警察。


僕と井戸沢さんの関係がすぐにバレてしまう。


リビングのテーブルに井戸沢さんのスマホを発見。


すぐに電源を切って、僕のポケットに入れた。


電源を切らないと、GPSで場所が特定されてしまう。


どこか遠くにスマホを捨てに行かないと。


次は、井戸沢の始末もつけないと。


今の僕の顔面とお腹の一撃でさすがに死なないだろう。


もっとボコボコにしたいが、証拠が残る。


燃やし殺す。


家ごと。


幸いこの家は大きい。


庭も広い。


それが唯一良かったことだ。


他の家まで巻き添いを喰らわない。


僕はすぐさま持っていたライターで、今いるリビングのカーテン、絨毯に火をつけ始めた。


井戸沢さんが倒れている付近に火を放ったので、すぐに井戸沢さんは焼け死ぬ。


それが最低限果たせればいい。


そう思い、僕は急いで家から脱出した。


その頃、山本愛加は井戸沢さんの家付近にいた。


井戸沢さんに関する情報を集めていたのだ。


「フフ。井戸沢さんの情報がだいぶ集まってきたわ。あとは、井戸沢さんの家で出入りする人たちをチェックしなくちゃ。」


愛加は井戸沢さんの家に着いた。


すると、足早に井戸沢さんの家から出てくる良太の姿があった。


愛加には気付いていない。


「良太。今日も井戸沢さんの家に行っていたの。でもおかしい。こんな中途半端な時間に帰るなんて、何かあったに違いない。あの良太の表情。目的を達成したかのようなそんな顔。まさか…。」


愛加は嫌な予感を感じ、しばらく井戸沢さんの家の様子をみていた。


井戸沢さんが倒れている一階のリビングは火が激しく燃え始めた。


二階から誰かが降りてきた。


良太の兄次郎だった。


「良太。やっぱりこんなやり方で。」


次郎は急いで火を消し始めた。


水を使うのではなく、スリッパを使って衝撃で火を消化した。


「良太。もうちょっと頭を使わなくちゃダメだろ。こんなんだったらすぐに警察に放火ってバレるのに。」


そう言って、次郎はキッチンに向かった。


「ほら。幸いなことにここのキッチンはガスコンロだ。容易いだろ。」


次郎は鍋に水を入れ、グツグツ煮始めた。


近くにあったキッチンペーパーにガスコンロの火を当てた。


たちまちキッチンペーパーは燃え広がった。


井戸沢さんをキッチンテーブルにうつぶせにして、椅子に座らせた。


料理を作ろうとしていた途中、居眠りをしてしまい、そのまま火が燃え上がってしまった。


という設定を作り出すためだ。


準備は整ったので、次郎はゆっくり井戸沢さんの家から出て行った。


愛加が外にいることに気づいたので、庭の裏口から外に出ることにした。


次郎はなぜ、井戸沢さんの家にいたのだろうか。


こうなることがわかっていたのか。


それとも…。


数分後、井戸沢さんの家から煙が立ち始めた。


「やっぱり。こういうことなのね。良太。」


愛加はすぐに119番に電話をかけた。


そして、電話をかけた後、その場から離れた。


「良太。あなたは大丈夫なの?普通じゃないよね。私が守ってあげなくちゃ。」


三日後のニュース。


「先日、京都北区で起こった住宅が全焼し、一人の遺体がみつかった火事の続報です。火元はガスコンロからで被害者である井戸沢孝さん58歳が調理中に出火したと思われていました。しかし、捜査が進むにつれ、井戸沢孝さんの家近くでは、近所の人から不審者が何度も見かけられていたと証言されています。警察は、家の中に何人もの痕跡があったとし、複数の犯行として、放火として捜査を進めてします。」





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