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  • 執筆者の写真鈴木良太

「Daddy Killer」第九話「中毒」

僕は変わった。


明らかに井戸沢さんに出会ってからだ。


仕事が好きなわけじゃないけど、なんかパワーが湧くんだ。


仕事に対して精力的になった。


なぜだろう。


朝、昼、晩と井戸沢さんがぼく電話をくれて、パワーを分けてくれるからだろうか?


同僚の宮本にも、


「鈴木。最近、なんか覇気があるよな。元気というか男っぽくなったというか、みんな言ってる。特に年下の女の子でお前のこと気にし始めた子がいるらしいぞ。やったじゃん。」


「僕、彼女いるから関係ないじゃん。」


取引先にも、


「鈴木君。だいぶ仕事に慣れたよね。最初ここに来たときはこの子大丈夫かなって思ってたけど、今はずいぶん頼もしくなったよね。」


周りの評価にあまり興味はないけど、とりあえず僕はそんな感じになってきているらしい。


でもほんと仕事なんてどうでもいいんだ。


僕はただ、井戸沢さんの声が聞きたい。


早く会いたい。


それだけなんだ。


というか、体の中から体の芯から男性ホルモンがあふれ出てくる感じなんだ。


パワーが湧いてくるけど、ちょっとしたことですぐにイラつく。


このイライラが気になって、検索して調べてみた。


恋愛状態になると、男は男性ホルモンが分泌される。


男性ホルモンがたくさん出ると、仕事は精力的になる。


しかし、攻撃的にもなる。


僕のイライラはこの攻撃性から来ている。


何にイラつくか。


井戸沢さんと会えないこと。


声がもっと聞きたいこと。


最近、井戸沢さんとのやり取りの中で悩んでいることがある。


朝、井戸沢さんの声を聞くだけで当然僕の息子は元気になる。


元気な息子はエネルギーを出してしまわいと収まらない。


井戸沢さんは喜んで協力してくれる。


「若いんだからどんどん出しなさい。いくらでも作られるから。」


朝はすんだ。


でも、朝、仕事をしていると、井戸沢さんのことをもう思い出す。


朝の電話のことを考えると、もう元気になる。


仕事を昼まで終わらそうと必死になる。


こういうところが仕事に対してエネルギッシュにみえる。


周りからは頑張っているなって思われるかもしれないが、ただ井戸沢さんと電話して発射したいだけなのだ。


何とか昼休み、井戸沢さんとの電話にこぎ着けた。


井戸沢さんはしっかり昼ご飯を食べる人だからあんまり早すぎる時間に連絡を取ってはいけない。

早くても12時40分。


会社にいるときは僕は会社のトイレに。


出ている時は、どこかのトイレに。


井戸沢さんにも出来る限り一人になってもらって、僕が果てるのを聞いてもらう。


これで午後からの仕事も頑張れる。


でもダメだ。


また昼のトイレのことを思い出す。


もう早く帰って、井戸沢さんの声ももっと長くゆっくり聞きたくなる。


急いで仕事終わらすことに全力を尽くす。


これでまたみんなに勘違いされる。


早く帰って、井戸沢さんと電話しまくりたいだけ。


僕はこんな自分が許せない。


だって完全におもちゃじゃないのか?


モノだ。


ただの。


僕は井戸沢さんの前で、電話でその行為を拒否したかった。


すると、


「あれ?今日はしないの?どうせ僕のこと考えて、元気になってるよね?出さなきゃダメだって。鈴木君。」


そういう雰囲気になりたくなくて、電話を早く切ろうとすると、こんな挑発をしてくる。


僕は泣きたい。


精神的には泣いているんだ。


もうこんなことしたくない。


あまりにも安い。


自分をもっと大切にしたいのに。


安売りし過ぎだ。


出しても出しても出しても、井戸沢さんのことを思うだけでパワーが蘇ってくる。


精力が増していく。


こんなことってあるのか。


中学生の時より、今の方がずっと元気に思う。


これが、恋だというのならなんて恐ろしいだ。


恋は素敵だ。


世の中は恋愛史上主義みたいな風潮がある。


でも僕には地獄だ。


もう普通の日常に戻れない。


井戸沢さんの存在そのものが快楽の源。


辞められない。


止められない。


止まらない。


ああ。


どうしたらいいんだ。


この感覚。


僕はもちろん覚醒剤などの薬物に手を出したことはないが、それと同義ではないか。


絶対そうだ。


だって、やめたいんだよ?


でもやめれないんだ。


体が許してくれない。


頭では関わりたくない。


でも体が井戸沢さんなしではいられない。


僕は覚醒剤をしているような体験をしている。


普通じゃない。


みんなが恋でここまで苦しんでいるなんて到底思えない。


僕だけなのか?


そんな中、また井戸沢さんが僕を傷つけた。


「鈴木君。ごめんね。明日から出張で北海道に行くんだ。だからいつものように電話できないからね。」


「何でですか?頑張ればできるはずです。朝も昼も夜も!!」


「時間が空いたらしたいけど、昼も取引先の人と一緒だし、夜も接待、夜中は北海道の友達に会うし。」


「じゃあ夜は北海道の友達とセックスばっかりしてるんですか?」


「そこは鈴木君の想像に任せるよ。最近、北海道の友達と会ってなかったから、一緒にいる時間は長いと思うな。」


「じゃあもういいです!!」


僕は猛烈に腹が立ち、そのまま電話を切った。


本当に腹が立つ。


井戸沢。


あいつ、何様なんだ。


こんなに人を腹立たせやがって。


あれ?


よく考えてみよう。


俺はちょっと前、あいつと別れるって言ってなかったか?


そうだ。


そうだ。


問題ない。


いい機会だ。


何で今まで別れるって言わなかったんだ。


やっと言えるじゃないか。


このムカつく気持ちのまま伝えればいいんだ。


「二度と僕に連絡してこないでください。エロクソジジイ。」


メッセージは送信されました。


ヒャハハハ。


言ってやったぜ。


あいつ、傷付いたかな?


もし傷付いてくれたらたまらなく嬉しい。


いや傷つけ。


既読はついたけど、返信なしか。


そりゃそうか。


うん。


それがいい。


これであいつから連絡があるわけないのだから。


僕はこの夜スッキリ睡眠が取れた。


わけがなかった。


全く寝れない。


自分で連絡しないでって送ったくせに、「何で連絡くれないの?」って言ってることとやってることが違う病が発症した。


次の日の朝、当然、井戸沢さんから電話がなかった。


いつも当たり前のようにあったのに。


鏡の見ると、僕の顔は睡眠不足から青白かった。


今までの仕事とはうってかわって、全く仕事ができなかった。


頭の中は井戸沢さんのことしか考えていないし、いつものように発射もさせてくれない。


仕事に集中できるわけがなかった。


頭の中は、


「何で連絡くれないの。僕のことどうでもいいの?好きじゃないの?そんなこと始めから知ってたよ。」


と自問自答を繰り返しまくっていた。


たった一日、井戸沢さんと連絡を絶っただけでこれほど僕が苦しむなんて思ってもみなかった。


攻撃的なメッセージを送ったときは楽しかったけど、それ以上に悲しみが大きすぎる。


もうたえられない。


井戸沢さん。


井戸沢さん。


北海道にいても僕のこと思ってください。


好きです。


好きなんです。


井戸沢さん。


泣きたいなのに、泣けない。


どうしたらいいんですか。


「ごめんなさい。昨日はひどいことを言ってしまいました。お願いします。時間があるときでいいので、電話かメッセージをいただければ、嬉しいです。」


謝罪のメッセージ送ってしまった。


何やっているんだ。


僕は。


送った後に後悔する。


ひどいこと言って、昨日の今日でもうこんな内容が送れるか、普通。


正気の沙汰じゃないだろ。


でも、井戸沢さん好きだから、仕方ないんだよ。


苦しむのは自分だぞ?


22時すぎ、井戸沢さんから返信があった。


「昨日はびっくりしたよ。あんなこと言われたのは初めてだよ。今、接待が終わって今から、飲み屋に行くところ。時間があるとき、こっちから連絡するから待っててね。ちゃんとお土産も買って帰るから。『白い愛人』。僕と鈴木くんみたいな関係でしょ?」


井戸沢さんの言葉一つ一つがこんなにも僕の心に入っていくなんて。


嬉しい。


返信があって、こんな嬉しかったことが僕の人生の中にあるか?


あるわけがない。


本当に幸せ!!


言うこともユーモアあって笑ってしまう。


こんな人に心から愛されたい。


愛して欲しい。


頑張ろう。


井戸沢さんに愛してもらう男になるんだ僕は。


ポジティブになった僕は夜、グッスリと眠ることになった。


でも僕は本当にバカだ。


お互い傷つけ合って、最終的にあんなことになって。


どうすれば良かったのか?


恋愛中毒状態をどうすれば、抑えることができたのか。


それは自分が死ぬか、相手が死ぬかしかないのではないか。


誰か教えて欲しい。


つづく。




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