はあ。
沖縄から帰ってきたばかりなのに、朝からこわい目にあったな。
「社長おはようございます。」
「おはよう。僕が沖縄行っている間、変わりはなかった?」
「はい。問題ありません。」
「良かった。」
今日の夕方、鈴木君と河原町で約束しているな。
あんなことがあったし、断ろうかな。
でも鈴木君にも悪いし、ちゃんと話した方がいいかな。
「社長!!」
「なんだい?」
「お客様ですよ。山本様という。」
「どこの会社の山本さん?約束していないよ。」
「じゃあお断りしましょうか。若い女性です。」
女性?
僕、女性には興味ないし、何だろう?
でも、嫌な予感がする。
今朝と同じような気がする。
「とりあえず、来客室にお通しして。僕が会うよ。」
「はい。」
井戸沢さんは来客室に向かった。
「えーと、どちら様ですか?お会いするの初めてですよね?」
「山本愛加と申します。会うのは初めてです。お伝えしたいことがありまして。」
「どういったご用件ですか?」
「鈴木良太はご存知ですか?」
うわ。やっぱりそっちか。
「鈴木君とは歳の離れた仲の良い友達です。」
「ラブホテルに入るような関係が仲の良い友達なんですか?私、みましたよ。あなたと良太がホテルに入るところを。」
「…。」
「あなたは知るよしもないかもしれませんが、私は良太と付き合っています。今の良太が私のことをどう思っているかわかりませんが、良太も私もお互いを必要とする関係だと思っています。でもあなたは違うんでしょ?いろいろ調べさせてもらいました。」
「何を調べたんですか?」
「良太だけじゃないんでしょ?若い男が好きなんですね?ホントに気持ち悪いですね。あなた自分の顔を鏡で見たことがありますか?おじさんですよ?おじさん!!もうすぐ還暦ですよね。ビジュアル的におかしいでしょ?」
「あなたは私を侮辱しているのですか?」
「侮辱?事実でしょ!!もしかして被害者だと思っていますか?笑わせないでください。汚らわしい!!」
「目的はなんですか?」
「別にありません。が、忠告しようと思いまして。」
「忠告?脅迫でもする気ですか?」
「あなたはこのまま無事でいれると思っていますか?必ず地獄に落ちます。」
「霊感商法ですか?よくわかりませんが、あんまりしつこいと名誉毀損で訴えますよ。」
「裁判!?そんなの望むところじゃないですか。あなたのやってきたことの数々を世間に公表できるんですよ。それは私の望み通りの展開です。奥さんに黙って、若い男を食い散らかしてきたあなたはどうなるのでしょう。マスコミのネタにもなるかもしれません。あなたの会社は小さいですが、その影響で知名度も上がるかもしれません。そうなれば、私に感謝することになりますね。でもあなたは裁判に勝とうが負けようが社会的に抹消されることは確実でしょうけど。」
「わかりましたから、お引き取りください。鈴木君とはもう今後一切会うつもりはございませんので。」
そういうと、愛加は素直に帰って行った。
「社長誰だったんですか。彼女は?」
「なんか勘違いみたいだったよ。」
あー。怖かった。
鈴木君の周りって怖い人たちが多すぎ。
さっきの彼女も怖すぎるよ。
鈴木君の前の彼女だな。
なんで僕と鈴木君の関係がバレたのかわからないけど、逆恨みされてるのかな。
鈴木君。
なんで上手にやれないのかな。
彼女と付き合いながら、僕と関係を続ければ良かったのに。
僕にばっかり固執するから、彼女に気付かれちゃったんだろうね。
もう。不器用な子だね。
嫌いじゃないけどね。
まだ遊びがいはあるけど。
ちょっと、鈴木君のお兄さんも怖いから、さすがに関わりたくないな。
今朝、井戸沢さんが朝一番で会社に来た。
仕事でやることがたくさんあったので、早朝から取り掛かろうと思っていたからだ。
会社の駐車場に車を停め、会社に向かおうとしたとき、一人の男が話しかけてきた。
「あなたが井戸沢さんですか?」
すごくイケメンの若者だったので、井戸沢さんは嬉しくなってニヤけてしまった。
「おはようございます。井戸沢です。初めましてですよね?あなたのようなイケメンの方は知り合いにいないです。」
「私は鈴木次郎です。いつも弟がお世話になっています。」
「あっ。鈴木君のお兄さん!!ホント話には聞いていたけど、全然似てないね。血が繋がっているとは思えないね。」
「それは弟を馬鹿にしていますか?」
「とんでもない。鈴木君も素朴な感じがいいと思います。」
「今回、あなたに愛に来た理由は一つ。弟の良太との関係を絶ってもらうことです。」
「はあ。関係と言いましても、僕と鈴木君はただの友達同士ですよ。」
「とぼけても無駄ですよ。あんたと良太はそういう関係なんだろ?口に出すのも気持ちが悪い。全部あんたが良太をたぶらかしたんだろ?」
「ええ。僕がですか?どちらかというと鈴木君から僕に寄ってきているような気がしますが。」
「あんたが招いたことだ。良太は思い込みが激しい。自身が正しいと思ったことは悪いことでも実行してしまう。あんたと良太は最悪の相性だったんだ。おそらく、このままあんたと良太が関係を続けたとしても、事件が起きる。でもその前に、関係を断て。あくまで自然に。良太を刺激するな。」
「そんなことを急に言われても。たしかに鈴木君は困ったところもあるけど、悪い子じゃないと思うよ。お父さん警察官の偉いさんだし。」
「親なんかどうでもいいだろう。それより、これ以上良太を傷つけるようなことがあったら、あんたに地獄を見せてやるから覚悟しとけ。」
そう言って、次郎は去っていった。
な、何、あのお兄さん。
鈴木君から聞いていた話と全然違う気がする。
次男のお兄さんは優しいって言ってなかった?
イケメンなのに、怖いよ。怖すぎる。
僕は別にどっちでもいいんだよ。
何をみんな本気になってるのかな。
僕と鈴木君はただの友達。
体の関係はお互いが気持ちが良かったからしただけのこと。
それ以上は何もない。
だから、なんでそんなに怒っているのだろう。
こんな関係がずっと続くわけないじゃないか。
最長で3年だよ。
3年経つと体の関係はなくなるよ。
僕も同じ子を相手にずっとなんかできないし、どんどん若い子を発掘していきたいもん。
なんでわからないのかな。
そんな迷惑をかけているかな。
鈴木君のことを思って、落語とか歌舞伎とか連れて行ったのに。
社会勉強たくさんしてほしいと思って。
おかげで鈴木君が、株に興味があることがわかって、すごく良かったと思っているのに。
感謝されてもいいはずだ。
僕は鈴木君のためを思ってやるだけのことはやってきた。
鈴木君の元彼女もお兄さんもわかってない。
僕と出会えたことは鈴木君の今後の人生に必ず役に立つ。
お兄さんの言動を考えると、事件性については完全に否定することはできない。
鈴木君が何を考えているのか、少しわからないところもある。
最悪のケースがある?
鈴木君がストーカーになって、僕を殺すってこと?
いやいやないよ。
だって、鈴木君のお父さん立派な方だよ。
それに警察官だ。
そんなことあるわけがない。
僕は信じているよ。
鈴木君を。
「だってよ。」
「良太。」
「どう思う?」
「一言で言うと、残念。ホントに人の本質をわかっていない。それでよく社長がやっていけると思う。僕がおかしいやつだと最初に気づくべきだったんだ。親が立派とか警察官とかそんなことで判断するなんておめでた過ぎる。金持ちの家に生まれた子どもがみんな立派だとは限らない。そんなこともわからないのか。いや思考停止しているだけかな。考えるのが怖いのかもしれない。でも、そんな井戸沢だからいいのかもしれない。その井戸沢の思いの逆をすることが何よりの喜びになるのだから。」
「今のおまえは完全無比だな。甘さもない。安心した。計画はちゃんと立てているのか。井戸沢とは連絡が取れないんだろ?」
「やり方を変えれば、大丈夫だ。冷静に考えれば、接触するチャンスはある。」
「殺した後はどうするんだ?警察に出頭するのか?」
「まさか。罪を償いたい相手だったらそうするのかもしれないが、井戸沢に対して同情の余地もない。完全犯罪をやり遂げる。井戸沢を殺して刑務所に入るのなら、死んだ方がマシだ。絶対に自害する。」
「なら、良かった。さあ、じゃあおまえの全てを解放するときだ。ため込んだものを全て井戸沢にぶつけるんだ。」
僕の思いも行動も憎しみも何もかも解放する。
井戸沢!!
つづく。