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  • 執筆者の写真鈴木良太

「Daddy Killer」第十八話「本性」

井戸沢さんから連絡が来なくて三日が経った。


僕は送り続けている。


「時間があるときは、連絡してね。待ってるね。」


「僕の銘柄は上がってるよ。儲けた分井戸沢さんにプレゼントするね。」


「沖縄はどう?寒くなってきた?大阪はだいぶ寒いよ。」


「電話でもなんでもいいから、連絡ちょうだい。」


「井戸沢さんを愛してるんだよ。お願い。」


井戸沢さんから連絡が来ない一日目は、悲しんだ。


悲しさと寂しさ。


愛している人に愛してもらえない悲しさ。


抱きしめて欲しいのに、抱きしめてもらえない寂しさ。


泣きたいのに、泣けない。


心に大きな穴が空いた。


胸も痛い。


心の中もズキズキと痛む。


なぜ、泣けないのだろう。


心の中で泣いているのに、悲しいのに、泣けたら少しは楽になれそうなのに。


僕はまだ自分の心の中に気づいていない。


井戸沢さんから連絡が来ない二日目は、怒った。


あんなクソガキのどこがいいんだ!!


大学のガキのどこが!!


アソコだけが元気な中身スカスカのどこがいいんじゃ!!


あっ?


俺がイケメンじゃないからだって?


この世のイケメンの顔を全部引き裂いてやろうか!!


そしたら、井戸沢も悲しむだろうな。


ハハハハ。


井戸沢とガキめ。


今度会ったら、ボコボコにしばいてやる。


井戸沢さんから連絡が来なくて三日目、とうとう連絡があった。


「ホントに君はしつこいね。僕は疲れました。いい加減、僕にしつこいメッセージ送るのはやめてください。君みたいな人とは付き合いたくも連絡も取りたくありません。返事も電話も連絡もして来ないでください。不快です。」


僕はすごく嬉しかった。


心から笑った。


なんで僕の思い通りにことが運ぶのか、僕にはわからなかった。


最初からここまでの展開を無意識に予想していたのかな。


これで、この男に情をかける必要がなくなる。


どこまでも非情になれる。


心を込めて。


嬉しい。


嬉しいんだ。


本当に自分の気持ちと行動を解放できるから。


人はやりたいことを全てできるわけじゃないじゃないか。


生きていく中でたくさんのルールがある。


それを守ることは大事だ。


みんながルールを守らなくなったら、社会として成り立たない。


車の事故は増えるし、殺人も増えるし、泥棒も増えてしまうね。


それはダメだよね。


だって、自分がされたくないじゃん。


いきなり、想像もしていないような人から、事故を起こされたり、殺されたり、泥棒されたりしたら、たまったもんじゃない。


僕はそんな見ず知らずの人にそんなことができないよ。


お金を積まれたってできない。


人を傷つけることが好きなわけじゃないから。


特定のもの以外は。


でも、特定に入っちゃったんだ。


井戸沢は。


もう、嬉しさしかないよね?


僕の全身全霊をかけてやれるのかと思うと、たまらなく身震いするよね。


もちろん、井戸沢に対して、エッチをするときも全身全霊だった。


井戸沢とするときは、僕は何回も射精できてしまう。


理由は簡単だった。


僕がエロいわけじゃない。


初めからわかっていたから。


井戸沢ときちんとした付き合いができるとは思っていなかった。


僕を大切な恋人として、見てくれるとは思えなかった。


井戸沢が手に入らないもどかしさ。


そのもどかしさは興奮の起爆剤になってくれた。


だから射精しては、またすぐ回復し、また射精できた。


沖縄旅行中でも、何回も何回も射精しまくった。


それでも足りない。


僕の心の怒りは井戸沢と出会ったときから、収まらなかったのだから。


僕は井戸沢を苦しめることに最初から快楽を持っていた。


無視したり意地悪をするとたまらなく心が満たされた。


それはエッチのプレイ中でも行われた。


井戸沢は顔に必要以上にキスをすると怒るところがあった。


翌日に接待などで得意先に顔を見られるからだ。


それを知っていたから、必要以上に顔にキスをしてやった。


キスあとが残るほどに。


ほっぺに赤く残った。


井戸沢はすごく怒っていたことがあった。


また、井戸沢は右の乳首が性感帯だ。


だから、あえて左の乳首ばかりを責めてやった。


責めるというか、噛んだやった。


気持ちいいを通り過ぎるくらいの痛みで。


苦痛に歪む井戸沢の顔。


忘れられない。


なんて楽しいのだろう。


あはは。


久しぶりだな。


「Daddy Killer良太」。


なんで最近出て来なかった?


わからないのか?


なんで?


射精と一緒だ。


えっ。


射精は我慢すればするほど、勢いが増すものだろ?


だから、俺は待っていたんだよ。


おまえの感情の堤防が崩れるのをな。


あっ。


頭いいな。


理性が効かなくなったお前に怖いものなどないだろう。


やりたいことをやればいい。


うん。


そうだね。


自分の気持ちと感情には正直に生きなきゃ体には毒だもんね。


僕は別に快楽殺人犯じゃないけど、もう抑えられないみたい。


井戸沢がこの世界にいることに耐えられないみたいだ。

よくよく考えて欲しい。


井戸沢は大勢の人間を苦しめている。


井戸沢さんの奥さん。


奥さんを裏切って、多くの若い男と関係を持ち続けている。


息子さんたち。


自分の同じ歳くらいの男の子と関係を持っているお父さんのことをどう思うのだろうか。


井戸沢と関係のあった多くの若者たち。


僕は思った。


奈良の子もこの先、被害者になりかねない。


今は井戸沢と楽しい日々を過ごしているが、井戸沢に捨てられたとき、大きなショックを受けるだろう。


もし、心が弱い子だったら自殺してしまうかもしれない。


年間の自殺者は3万人くらい。


自動車での死亡事故が年間1万人以下。


殺人が年間100件ほど。


行方不明者が年間7万人くらい。


行方不明者の中には、遺体を抹消してしまうような完全犯罪が多いんだろうな。


僕は戦う。


日本の貴重な生産年齢を守るために。


若い子たちを守る側になる。


悪は井戸沢だ!!


井戸沢が死んでも大丈夫。


前に聞いたんだ。


「井戸沢さんが死んだら社長は誰になるの?」


って。


すると、親戚の誰かになるって言っていた。


井戸沢が死に、財産は奥さんか子どもたちに入る。


子どもたちは井戸沢の財産を生活費にあてる。


若い世代は低所得化が進んでいる。


少しでも井戸沢世代、上の世代のお金をまわしてあげなきゃいけない。


だから、死んでくれ。


井戸沢。


僕のため。


この日本社会のためにも。


若い子たちを守るためだ。


僕は正義のためにおまえを殺すんだ。


心を込めて、誠実にあなたを殺します。


つづく。




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